記事 022:梅との対話

記事要約

梅干し作りは、梅雨から土用干しまで、自然と対話しながら時間をかける営みです。

塩加減、重しの調整、職人の知恵、そして失敗から学ぶ経験。

三年以上寝かせた梅干しを、一粒から三つの表情を愉しむ。

道具を大切に扱い、毎年新たな発見を重ねる手仕事の記録です。

カテゴリー

料理、夏


  • 日本の食文化の中で、私が暮らしの中で触れてきた一場面を綴ります。
    熾火を囲むような穏やかな気持ちで読んでいただければと思います。

1. 梅の塩漬け

この記事は、記事 011:梅の香りに包まれて

からの続きです。


琺瑯容器に眠る五キロの梅。磁器の重しが静かに時を刻む。

梅干し作りは、梅を塩で漬けることから始まります。

この容器には五キロの梅が入り、塩は梅の二割にあたる一キロをいれます。

今年の塩分割合は、カビ対策を考えて伝統的な分量に戻しました。

我が家の環境では、この割合が最も安定した結果をもたらすようです。

重しの掛け方は、その年の梅の品質や梅雨の気温によって微調整が必要です。

経験を積み重ねることでしか身につかない、手仕事ならではの感覚だと私は感じています。


2. 梅酢との対話


梅酢の上がり具合を確認。重しの調整が美味しさの鍵を握る。

梅の塩漬けで最も大切なのは、梅酢の上がり具合を定期的に観察し、重しの掛け具合を調節することです。

梅の皮が破れる一歩手前まで重しを掛けると、食べやすい梅干しに仕上がります。

梅雨時や気温が上がり湿度が高くなる時期には、特に梅酢の変化を注意深く観察します。

梅の香りが異臭に変わってしまったら、潔く諦めて来年再挑戦です。

自然を相手にする手仕事には、こうした潔さも必要なのだと学びました。

今年は、そんな残念な思いはしたくないので、私は毎朝、梅に向かって「カビに負けないでください」と声を掛けています。


3. 土用干し


竹ざるに並んだ梅たち。太陽の下でゆっくりとしわを刻む。

夏の土用(立秋前の約十八日間、夏の最も暑い時期)に、天候が安定している日を選んで三日間連続で干し上げます。

この工程は、天気のご機嫌をうかがう期間とも言えます。

雨で梅が濡れないことが一番ですが、仮に濡れても私は梅酢で洗って干し直します。

干し用のザルには、竹製を使用しています。

私は梅を並べる前に、竹ザルを梅酢でしっかりと拭いておきます。

そうすることで、柔らかくなった梅の表皮がザルに貼り付くのを防げるようです。

実際、重しが適切に効いて表皮が柔らかくなった梅の場合、天地替え(一個ずつひっくり返す作業)が今までになく楽になりました。

この下準備は、竹籠づくりの職人に教えていただきました。


赤紫蘇も一緒に天日浴。箸で丁寧にひっくり返す根気の作業。

厳しい暑さの中、二時間ごとに箸で一個ずつひっくり返す作業は、私にとってかなりの根気を要します。

それでも、塩漬けの香りから梅干しの香りへと変化していく様子は楽しいものです。


4. 梅酢の容器

この時、梅酢も同時に日光浴をさせます。

梅酢を入れる容器は、酸や塩の影響を受けない材質のものを選ぶことが肝心です。

以前、梅酢の量が多く、身近に適当な容器がなかったため、私はステンレス製のボウルを使用しました。

しかし、酸による腐食で貴重な梅酢を捨てる羽目になってしまいました。

そして、容器の材質選びについても、失敗から多くのことを学びました。

今回の梅は、青梅のときや塩漬け時はかなり硬い果肉でしたが、日光浴によって程よく柔らかくなりました。

理想には程遠いですが、去年よりは良い仕上がりとなり家族で安堵しました。


5. 梅干しの味比べ


常滑焼の甕で静かに眠る梅干し。梅酢で洗い清める作業のひととき。

干し上がった梅は、梅酢で丁寧に洗ってから常滑焼の甕(伝統的な貯蔵容器)に入れて保管します。

三ヶ月ほど寝かせれば食べ始めることができますが、我が家では最低でも三年以上寝かせることにしています。

私が十年物と一年物を味比べすると、その違いは歴然です。

時間をかけることで生まれる複雑な酸味と香りは、思いがけない発見や気づきを与えてくれます。


6. 竹ザルの手入れ

竹製のザルは湿ったまま保管するとカビが生えることがあります。

最初は対応策が分からず、私はタワシでゴシゴシと水洗いをしていましたが、さほど改善されませんでした。

私が竹籠づくりの職人に相談したところ、梅酢で処理すれば軽減できると教えていただきました。

ただし、ザルには梅酢特有の香りが染み込みます。

道具を大切に扱うことも、手仕事の大切な要素と思っています。


7. 梅一粒で三度の味わい


織部焼の香合と結晶が生えた梅干し。時が刻んだ美しい証。

織部焼の香合に入れた梅干しには、白い結晶ができています。

長年梅干し作りをしてきましたが、この結晶は初めて目にしました。

私は暑い季節になると、このような器に梅干しを入れて、小福茶碗で梅茶を愉しんでいます。

一粒の梅から広がる、三つの表情の愉しみ方をご紹介します。

  • 一杯目:梅干しがひたる程度に白湯を注ぎ、梅の酸味を味わいます。
  • 二杯目:梅干しの果肉を箸で潰し、純正醤油をほんの少し加えて白湯を先ほどと同量注ぎます。
    かき混ぜると、梅と醤油の香りがふわりと立ち上り、心が静まります。
  • 三杯目:種だけになった器に白湯を注いで、名残惜しさと器からの語りを聴きます。

※ 梅干しの種の誤飲に注意し、お茶をお愉しみください。

小福茶碗についての説明は、

記事 019:アミダの器、見えない線

をご覧ください。


8. 梅酢の活用

我が家では、梅酢を根菜のアク抜きに使用しています。

また、暑い時期には梅酢茶としても活躍します。

外での作業時には、私はミネラルウォーターのペットボトルに少量入れて飲んでいます。

梅の自然な酸味が気分転換になり、私にとっては作業を続ける励みになります。

以前、私は調子に乗って梅酢を入れすぎてしまい、かえって喉が渇く事態となりました。

何事も、加減が肝心のようです。

  • 梅酢の酸味には個人差がありますので、ご自身に合った量でお試しください。
    これは個人の感想であり、医学的なアドバイスではありません。

9. お弁当と梅干し

私にとって梅干し作りは、単なる保存食作りを超えた、日本の四季と向き合う営みのようです。

失敗も含めて、毎年新たな発見があります。

お弁当に入った梅干しを見るたびに、「来年はもっと美味しく」と思ってしまいます。

そして、この作業がいつまでも続けられることを願っています。


10. 今回のまとめ

  • 「うめのあめ めぐみことほぎ しきみしお」

  • [Oumé no amé, mégoumi cotohogui, chikimi chio]

  • Ut, Mets, Nos, Amé, Mets, Gumi, Coque, Tôt, Guy, Si, Qui, Mis, Shio.

  • Mer, Pas, Clé, Parfum, Plafond, Battement.


関連記事

伝統的な塩分割合(塩分 20 % など)の梅干しは、塩分が高いので、一日の摂取量にご注意ください。

梅の塩漬け作業

小福茶碗(こふくちゃわん)

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参考文献

参考文献については、下記リンクをご利用ください。
今回参考にした文献は、料 07 です。


音声データ(音):2025_022_ja01

音声データ(朗読):2025_022_ja02(作業中)

Microsoft Clipchamp: Brigitte, VOICEVOX: 四国めたん

記事 終わり

  • 皆様の食卓に小さな発見と懐かしさをお届けできればと思います。