記事 011:梅の香りに包まれて

記事要約

梅干し作りの追熟過程で観察される香りの変化と、産毛が水を弾く自然の仕組みの観察。

失敗を重ねながら学ぶ梅肉エキス作り。

万葉集に詠まれた梅への興味、高野山での宿坊体験の記憶。

炭火と梅、その香りは違えども、すべては生命が産んだ恵み。

経験と知識のバランスを探る、ある梅仕事の記録。

カテゴリー

料理、夏


  • 日本の食文化の中で、私が暮らしの中で触れてきた一場面を綴ります。
    熾火を囲むような穏やかな気持ちで読んでいただければと思います。

1. 梅の追熟

竹かごの青梅 到着後、初日

毎年、仕上がりが楽しみな梅干し作り。

ですが、いざ始めると毎回反省点が多く、覚えきれずつい同じ失敗を繰り返してしまいます。

梅は気候の変化を敏感に感じ取る植物だと感じます。

その年の梅の品質によって、梅干しの香りや果肉の柔らかさが大きく変わります。

回を重ねるごとに、追熟の段階で、その梅が良い品質かどうか、ある程度判別できるようになりました。

青梅の時は、早朝に部屋に入ると、レモングラスのような酸味のある爽やかな香りが漂い、その実の質感からは果肉の硬さが伝わってくるようです。

追熟によって、その香りが日々変化していきます。

この香りの変化を観察するのが、私の楽しみの一つです。

そして、私が考える追熟完了の見極めは、「りんご」や「巨峰」が完熟した時のような、重くて甘みの濃い香りがした時が目安です。

これ以上追熟が進むと、重石(おもし)を乗せた時に梅の表皮が破れてしまいます。

今回は、梅干し作りの最初の工程についてお話しします。

我が家では、香りが立つまで追熟を行います。

その後、約1日間水に浸けて渋抜きをします。

ただし、長く水に浸けすぎると茶色く変色したり傷んだりしやすいので、注意が必要です。

梅干しの塩漬けから天日干しまでの工程については、次回の記事でお話しします。


2. 梅の産毛


追熟完了間近の竹かごの黄色い梅と、琺瑯容器で水に浸かった梅。手作業の下処理風景

今回使用したのは、和歌山県産の南高梅です。

梅が届いた時点では、輸送の関係でかなり湿気を含んでいることが多いです。

そのため私は、直接床や台に置かず、速やかに竹ザルなどの通気性の良い容器に移しています。

そして、できるだけ空気に触れるようにしています。

初めての時は、そのことに気づかず輸送用の箱をそのまま利用して追熟させたため、底の方の梅を傷ませてしまいました。

この失敗から、梅干し作りにも経験が何より大切だということを学びました。

追熟の期間中、梅は相当な水分を放出します。

傷んでしまわないよう、定期的に梅の状態を観察することが大切です。

この時、私が注目しているのは梅の表面にびっしりと生えている細かな毛(産毛)です。

私はこの産毛の状態を観察することで、梅の元気さを判断しています。


水洗い時の産毛の状態、空気の層が光に反射して光っている。手作業の下処理風景

元気な梅の産毛は、水の中に入れても空気の層を作り、梅の実を水から守ってくれる働きをしています。

この働きは、梅が自らを守るための「自然の仕組み」なのだと感じます。


3. 万葉集と梅

私は若い頃、桜のほうが好きでした。

年齢を重ねた今は、実りの経過が観察できる梅のほうが好きになりました。

梅の花が咲いて、ミツバチが脚にいっぱい花粉を着けて花から花へ飛び回っている様子を見ていると、つい時間を忘れて見入ってしまいます。

さらに、ナメクジなどの外敵に負けず、果実が段々と大きくなっていく様子を観察できるのも、私の大きな楽しみの一つです。

そして、実りの観察を通じて益々興味が湧いてきたので、色々と梅について調べてみました。

そうして、梅が日本最古の歌集「万葉集」(8世紀編纂)に登場する植物の中で、数多くの歌に詠まれていることを知りました。

私は学校で習ったはずですが、全く記憶にありません。

今では少しずつ、代表的な作品についてはおぼろげながらも、その情景が浮かぶようになっています。

当時の生活環境は、現代とはかなり異なるものだったと思います。

病気の治療一つとっても、現代とは比べものにならないほど厳しい環境だったと思います。

そうした中でも、季節の変わり目や心情の変化を梅の花に込めて表現できる精神の豊かさを感じます。

当時の人々の才能が、今の私にはとても羨ましく思えます。


4. 梅の栽培園

私は一度、梅の産地として有名な和歌山県の高野山(真言密教の聖地)や熊野三山(古来の霊場)を訪ねましたが、梅の栽培園を訪ねるまでには至りませんでした。

高野山での宿坊体験(寺院での宿泊)、特に朝勤行(早朝の読経)は私にとって忘れられない経験となりました。

一日では、全てを巡ることが出来ないので今度はゆったりと、二泊は滞在したいと思います。

私が訪ねた頃は、観光客もそれほど多くはなく、静かなものでした。

ところが、現在はかなりの人出になっているようです。

暫くして状況が落ち着いた頃に、参拝をかねて梅の栽培園を訪ねてみたいと思っています。


5. 梅肉エキス

梅肉エキスは、江戸時代から民間で作られてきた伝統的な食品だそうです。

私の感覚ですが、市販品は結構な値段がするので購入を躊躇してしまいます。

そこで、手作りに挑戦することにしました。

調べた結果、作業自体はいたって簡単そうに思えました。

  1. 陶器製すりおろし器を用いて青梅をすりおろし、汁を絞ります。
  2. 絞り汁を煮詰めます。

私の場合、煮詰め作業には煮詰める量に合わせて、小ぶりで底の深い琺瑯鍋を選びました。

そして、火起こしは大変ですがあえて炭火を使い、じっくりと煮詰めました。

焦がさないよう火加減を管理し、跳ねないよう木べらで絶えず混ぜ続けました。

この一連の作業には、かなりの根気と気疲れを要しました。

残念なことに味については、私が苦労した割には市販品と比べるまでもないくらい「酸っぱいだけ」の仕上がりでした。

この経験によって、なぜ梅肉エキスが高額な食品として扱われているのかを実感できました。

何事においても、適切な価値を理解するためには、実際の体験と知識のバランスが大切だと改めて感じています。

※炭火を扱う際は、一酸化炭素中毒や火災の危険があるため、十分な換気と安全管理が必要です。


6. 今回のまとめ

  • 「すみとうめ かをりちがえど うみのさち」

  • [Soumi to oumé, kaori tchigaédo, oumi no satchi]

  • Sue, Mis, Tôt, Humide, Qu'a、Au, Rit, Chi, Gars, Et, Dos, Ouïe, Mis, Nos, Sâ, Chi.

  • Cils de pierre, Nage de papillon, Parure d'arôme.


関連リンク


参考文献

参考文献については、下記リンクをご利用ください。

今回参考にした文献は、工 01、暦 01 です。


音声データ(音):2025_011_ja01(作業中)

音声データ(朗読):2025_011_ja02(作業中)

Microsoft Clipchamp: Brigitte, VOICEVOX: 四国めたん

記事 終わり

  • 皆様の食卓に小さな発見と懐かしさをお届けできればと思います。