記事 015:古民家
記事要約
安土桃山時代から続く古民家を訪ね、囲炉裏、火棚、火鉢、腰掛け台などの道具を通して先人の知恵を学ぶ。
「鉄の味」という独自の感覚、火災への備えが込められた意匠、火事体験から学んだ教訓。
物との対話を重ねながら、火と共に生きた暮らしの記憶を静かに綴る。
カテゴリー
手仕事
- 日本の住文化の中で、私が暮らしで触れてきた一場面を綴ります。
熾火を囲むような穏やかな気持ちで読んでいただければと思います。
1. 古民家の道具たち
我が家の桜の葉がみるみるうちに成長しています。
花が散った寂しさもありますが、今度は日陰を作ってくれるのでありがたい存在です。
山桜さんには、「今年も大量の毛虫攻撃にめげず、強風で枝が折れないようにがんばってください」と話しかけています。
さて、仕事もようやく落ち着き、旅行に行けるくらいの余裕が出てきました。
そして、連休がとれたので二泊三日の旅行で、近ごろ気になっていた古民家を訪ねてみました。
囲炉裏(いろり):家族が集う暖房と調理の中心となる設備(写真左)
火棚(あまだな):囲炉裏の上部に設置された防火と乾燥のための棚(写真左・上部)
火鉢(ひばち):移動可能な暖房具として使われた美しい工芸品(写真右上)
腰掛け台:土間で使われた素朴で実用的な家具(写真右下)
2. 古民家
この古民家は、安土桃山時代(16世紀後半)から受け継がれてきた貴重な建物です。
手入れの行き届いた立派な家屋は、「お食事処 水縄茶寮(みのうさりょう)」として多くの方に愛されてきましたが、2025年4月に閉店となりました。
この建物の管理者は、株式会社紅乙女酒造です。
詳細については、公式サイトをご覧ください。
【ご注意】
※ここでご紹介している家屋の様子は、2000年当時に撮影されたものです。
25年が経過した現在では、営業状況や店舗情報が当時とは大きく異なっています。
ご訪問を検討される際は、必ず事前に最新情報をご確認ください。
3. 鉄の味
私の記憶の中では、なぜか「古い物」と「鉄」が強く結びつく癖があるようです。
それは幼い頃に触った、錆びて放置された金槌や鋸、ノミ、刃物の錆を落としたところから始まります。
そして、磨かれて錆が落ち、本来の輝きを取り戻した姿が好きでした。
その時感じたのは、錆にも新旧の匂いがあるということでした。
そういった癖もあり、古い建物を訪ねてもつい鉄製品を見つけようとしてしまいます。
私はいつか機会があれば、「鎌倉時代や室町時代、そして江戸時代の鉄の味」について書いてみたいと思っています。
鉄の味とは、鉄が時代を経るとともに変化していく様子を手で持った時に感じる独特の感触のことです。
鉄の味を言葉で表現することは難しいのですが、実際に手で持つことによって、誰でもこの違いは感じ取れると私は思います。
たとえば、絹ごし豆腐のなめらかさと、木綿豆腐のしっかり感の違いを触ってなんとなく分かるくらいの感覚です。
4. 囲炉裏(いろり)・火棚(あまだな)
取り壊しを免れた建物は、様々な先人の知恵を私たちに語りかけてくれます。
実際に、当時のことを調べれば調べるほど、私は先人たちが「炎」との付き合い方に苦労していたことを知ることとなりました。
例えば、自在鉤(じざいかぎ)には、魚の形をしたものが多く見られます。
これは「魚は火の勢いを制御できる生き物」として考えられていました。
古くから火災を防ぐ願いが込められているそうです。
たまたまですが、じっと魚の顔を見ると「火は怖いですよ」と語りかけてくるような自在鉤に出会うこともありました。
また、地域によっては「天井(てんじょう)」という言葉が、防災への祈りを込めた「天の井戸(あまのいど)」を意味しているとも言われています。
実際の構造としても、頭上には頑丈な火棚(あまだな)が設置されています。
これは、火の粉が舞い上がって屋根裏まで届かないようにする「防火」の役割を果たしています。
同時に、衣類や食物を乾燥させる「実用」の機能も兼ね備えていました。
この機能については、実際に火の粉の舞い方を観察してみて納得できました。
私はこの火棚を、先人の知恵が詰まったとても合理的な仕組みだと思いました。
(参考:大島 暁雄他4名 著『図説 民俗探訪事典』P47,78,82)
5. 火鉢(ひばち)
この火鉢は、木口(こぐち)に朱漆(しゅうるし)を丁寧に塗り重ねて作られており、職人の技術の高さがうかがえます。
表面に施された「波に千鳥」の文様も木目を活かして配置されています。
私には、この意匠のバランス感は出せません。
時代を超えて、そこにあり続ける見事なデザインだと思います。
一般的に波に千鳥の組み合わせは、夫婦円満や家内安全といった縁起の良い意味を持つ文様として、古くから親しまれてきました。
私は、この文様がこの火鉢に採用されたことに深く納得がいきます。
さらに私は、この火鉢の作り手が「防火」への願いもそこに込めていたのではないかと考えています。
波という水の要素と、火鉢という火の要素。
相反するものを組み合わせることで、火災への備えを表現したのかもしれません。
このような解釈については、様々な見方があると考えています。
私も今後、経験を重ね、さらに学びを深めていきたいと思います。
私は幼い頃、火鉢で餅やスルメを焼いた時の香ばしさと味を、今でも忘れることができません。
今思えば、目の前のことだけに夢中だった、のんびりと穏やかな時代の思い出です。
これは厳しい現実ですが、火事は一瞬で大切なものを灰にしてしまいます。
私自身、かつて火事を経験しました。
この経験によって、私は火の有り難さと恐ろしさ、そして人の行いの良い面と悪い面を身をもって知ることとなりました。
だからこそ、何事も安全第一で取り組むことが大切だと思います。
6. 腰掛け台
土間に置かれている腰掛け台は、長年多くの方に愛用されてきた様子がうかがえます。
細部を見ると、座面板は使い込まれて程よく角が落ち、座る人を拒まない柔らかな曲線になっています。
この腰掛け台は、長い年月を経て様々な方の疲れを癒やしてきたのでしょう。
二股に分かれた枝を活用した足の部分も印象的でした。
まるで「ご心配なく、私は丈夫ですから。どうぞお掛けください」と優しく誘ってくれているかのようでした。
7. 今回のまとめ
「けむりたち ひびのいとなみ やまかをる」
[Kémouritatchi hibi no itonami yama kaworou]
Quai, Mue, Rit, Tas, Chi, Hi, Bis, Nos, Idylle, Tôt, Nam, Mie, Yam, Qu'a, Au, Ris.
J'ai poli ce fer jusqu’à en oublier la cendre, pour n’être plus qu’un souffle de montagne.
La paix est un acier qui a appris à respirer.
関連リンク
- 株式会社紅乙女酒造 / BENIOTOME SHUZO CO,LTD
リンク:https://beniotome.co.jp/
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参考文献
参考文献については、下記リンクをご利用ください。
今回参考にした文献は、暦 02 です。
音声データ(音):2025_015_ja01
音声データ(朗読):2025_015_ja02(作業中)
Microsoft Clipchamp: Brigitte, VOICEVOX: 四国めたん
記事 終わり
- 皆様の食卓に小さな発見と懐かしさをお届けできればと思います。



